11種類の人事評価エラーとその対策 | マネージメント

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人事評価エラーとは

人事評価は従業員の能力や貢献度を適切に評価し、人材育成や処遇決定に繋げるための重要なプロセスです。しかし評価者の主観や偏見、あるいは評価制度や運用の不備によって、客観的な評価が歪められてしまうことがあります。これらが人事評価エラーと呼ばれるもので、評価するうえで防ぐべき課題です。

人事評価エラーの種類

ハロー効果

従業員の一つの顕著な特徴に過度の影響を受け、他の評価項目についても実際よりも高く、あるいは低く評価してしまう認知バイアスのことです。ハロー効果のハローは「hello(こんにちは)」ではなく、「halo(後光、光輪)」です。具体例としては次のような特徴があります。

  1. 高学歴で頭が良いからきっと仕事の理解も早く、成果も出せるだろうという思い込み。
  2. コミュニケーション能力が高いから、きっとリーダーシップ能力も高いだろうという思い込み。
  3. 過去に大きな成功を収めたから、今回もきっと素晴らしい成果を出してくれるだろうという思い込み。
  4. 容姿や身だしなみが良いから、能力に関係なく良い評価を付けてしまう傾向。
  5. 第一印象の良し悪しに引っ張られてしまい、能力に関係なく評価を付けてしまう傾向。

中心化傾向

被評価者の能力や業績に関わらず、評価項目において中間の評価を与えがちになる認知バイアスのことです。「普通」「どちらともいえない」「5段階中の3」といった評価に集中する状態を指します。中心化傾向は次のような要因によって引き起こされます。

  1. 評価への自信のなさ、評価結果に責任を持つことに不安を感じる場合。
  2. 被評価者との関係性への配慮により、良い評価をつけたい、または悪い評価をつけて関係が悪くなるのを避けたいという気持ちが働く場合。
  3. 評価に時間をかけたくない、深く考えたくないという気持ちがある場合。
  4. 評価項目や評価基準の意味を十分に理解できていない場合。

寛大化傾向

評価者が被評価者に対して、実際の能力や実績よりも甘い評価を与えてしまう認知バイアスのことです。寛大化傾向は、評価の甘さと基準の不統一を引き起こし、組織全体での評価の公平性を損なう可能性があります。具体例としては次のような特徴があります。

  1. 業績が芳しくない従業員に対して、実際よりも高い評価を与えてしいます。
  2. 部下とのコミュニケーションを重視するあまり、客観的な評価が難しくなります。
  3. 評価者と被評価者の距離が近い場合、客観的な評価が難しくなります。
  4. 評価の責任を回避するために、全体的に甘い評価に偏ってしまいます。

逆算化傾向

評価者が最終的な評価結果を先に思い描き、それに合わせて評価のプロセスや判断を歪めてしまう認知バイアスのことです。目的地(評価結果)から逆算して、そこに至る道筋を無理やり作ってしまうようなイメージです。本来人事評価は、従業員の行動や成果を客観的に観察・記録し、それに基づいて公平かつ公正に行われるべきものです。しかし逆算化傾向が働くと、評価者は以下のような行動を取りがちになります。

  1. 特定の従業員に対して「今回は高い評価をつけよう」「昇進させよう」といった結論を先に抱き、その結論を正当化できるような事実や解釈を無意識的に集めてしまいます。
  2. 事前に抱いた評価結果に合致するようなプラスの側面ばかりを強調したり、重要視したりします。逆にマイナスの側面は軽視したり、見過ごしたりします。
  3. 客観的な評価基準があっても、最終的な評価結果に近づけるように、その基準を都合よく解釈したり、曖昧に運用したりします。
  4. 複数人で評価を行う場合に、事前に結論ありきの評価を共有し、それに合わせて他の評価者と意見を調整してしまいます。

論理誤差

評価者が本来評価すべき能力や業績とは異なる、論理的に結びつきのない要素によって評価が歪められてしまう認知バイアスのことです。あたかも論理的な関連性があるかのように錯覚してしまうことが、この誤差の厄介な点です。具体例としては次のような特徴があります。

  1. 本来独立して評価されるべき複数の項目を、評価者の主観的な論理によって関連付けて評価してしまうことです。「コミュニケーション能力が高い人は、自ずと協調性も高いだろう」といった推測に基づいて、一方の評価が他方に影響を与える例が挙げられます。
  2. 評価者の個人的な価値観や信条が、評価項目の定義とは異なる形で評価に影響を与えることです。「主体性とは、指示を待たずに積極的に行動することだ」という評価者自身の解釈が、組織の定義する主体性と異なる場合に、評価が歪む可能性があります。
  3. 観察された事象に対して、実際には存在しない因果関係を見出して評価に反映させてしまうことです。「〇〇さんが△△プロジェクトで成功したのは、□□さんのサポートがあったからだ」と、直接的な証拠がないにも関わらず、一方の貢献度を過大評価したり、過小評価したりするケースです。

対比誤差

評価者自身や過去の評価対象者との比較によって、本来の評価対象者の能力や業績とは異なる評価を下してしまう認知バイアスのことです。絶対的な評価基準ではなく、相対的な比較に基づいて判断してしまうために発生します。対比誤差は次のような要因によって引き起こされます。

  1. 評価者自身の経験や能力が低い場合、高い能力を持つ評価対象者と比較して実際よりも低く評価してしまうことがあります。逆に、評価者自身の能力が高い場合、低い能力の評価対象者を実際よりも高く評価してしまうことがあります。
  2. 直前に非常に優秀な評価対象者を評価した場合、その後の平均的な評価対象者が実際よりも低く見えてしまうことがあります。逆に、直前に低い評価の対象者を評価した場合、その後の平均的な評価対象者が実際よりも高く見えてしまうことがあります。

期末誤差(近接誤差)

評価期間の終盤の出来事や印象が評価全体に強く影響を与えてしまう認知バイアスのことです。評価者が直近の行動や成果を過度に重視することで、評価期間全体のパフォーマンスを正確に捉えられなくなることが特徴です。期末誤差は次のような要因によって引き起こされます。

  1. 人は新しい情報や鮮明な記憶に強く影響を受ける傾向があり、評価期間終盤の出来事が強く印象に残ります。
  2. 評価期間全体の出来事を均等に記憶することが難しく、特に最近の出来事を思い出しやすいものです。
  3. 無意識のうちに、直近の成功や失敗を過大評価してしまいがちです。
  4. 評価期間中の具体的な行動や成果の記録が不足していると、直近の印象に頼った評価になりやすいです。

極端化傾向

本来は平均的な評価に落ち着くべき能力や業績に対して、実際には非常に高い評価または非常に低い評価を与えてしまう認知バイアスのことです。中心化傾向の逆をいくエラーです。極端化傾向は次のような要因によって引き起こされます。

  1. 評価者自身の楽観的または悲観的な性格、あるいは完璧主義といった価値観が、評価の厳しさや甘さに影響を与えることがあります。
  2. 親しい関係や苦手な関係にある場合、客観的な評価が難しくなり、良い点ばかり強調したり、逆に悪い点ばかりを強調したりすることがあります。

厳格化傾向

評価者が部下の実績や能力を実際よりも低く評価してしまう認知バイアスのことです。これは本来の評価基準よりも厳しい基準を無意識のうちに適用したり、些細な欠点に過度に注目したりすることで発生します。厳格化傾向は次のような要因によって引き起こされます。

  1. 評価者自身が完璧主義的な思考を持つ場合、部下に対しても高い水準を求めすぎ、些細なミスや改善点に過剰に反応し、全体的な評価を厳しくする傾向があります。
  2. 評価者が自身の部署やチームのパフォーマンスが芳しくないと感じている場合、それを部下の評価に転嫁し、評価を厳しくすることで、自身の責任を軽減しようとする無意識の防衛機制が働くことがあります。
  3. 評価者自身が過去に厳しい評価を受けてきた経験がある場合、それが評価基準に影響を与え、部下に対しても同様に厳しい評価を下してしまうことがあります。
  4. 組織全体に「甘い評価は許されない」という風潮や、「評価は厳しくあるべきだ」という暗黙のプレッシャーが存在する場合、評価者もそれに同調し、厳しめの評価を下すことがあります。

親近効果

評価者が自分と似ている部下に対して、無意識のうちに高い評価を与えてしまう認知バイアスのことです。例えば、出身地や出身校、趣味や価値観などが似ていると、それだけで好意的な印象を持ちやすくなり、本来の業務遂行能力や実績を正確に評価できなくなる可能性があります。親近効果は次のような要因によって引き起こされます。

  1. 出身地、出身校、前職や趣味などが共通する場合。
  2. 話し方、態度や服装などが共通する場合。
  3. 自分と同じグループに属する場合。

アンカリング

評価者が最初に得た情報や、自身が持っている初期の印象に強く引きずられ、その後の評価全体が影響を受けてしまう認知バイアスのことです。最初に設定された「錨(アンカー)」が、その後の思考や判断の基準となってしまうことから、この名で呼ばれます。アンカリングは次のような要因によって引き起こされます。

  1. 評価期間の初めに得た情報や、過去の評価結果が、その後の情報よりも強く印象に残り、判断の基準として過大に評価されてしまいます。
  2. アンカーとなる情報が一度設定されると、人はその情報から大きくかけ離れた判断を下すことを避ける傾向があります。新しい情報が得られてもアンカーからの微調整にとどまるため、最終的な評価が偏ってしまいます。
  3. 前期の評価や、入社時の評価がアンカーとなり、今期の評価もそれに引きずられてしまうことがあります。前期に高い評価だった場合、今期は業績が悪くても、そのイメージが評価を甘くする原因となります。

人事評価エラーを引き起こさないための対策

人事評価エラーを発生させないためには、まずはその内容を理解する必要があります。そのため前章では人事評価エラーの種類と内容を紹介しました。以降では人事評価エラーを引き起こさないための、具体的な対策を紹介します。

  1. 評価基準の明確化と共有
    評価項目ごとに具体的な行動や成果の基準を明確に定義し、評価者間で共通認識を持たせます。また定量的な評価項目を導入することで、評価者の主観による偏りを減らすことができます。
  2. 複数評価者の導入
    複数人の評価者による評価を行うことで、評価の客観性を高めることができます。
  3. 多面的な評価の導入
    上司だけでなく同僚、部下、顧客など複数の視点からの評価を取り入れることで、一人の評価者の主観的な判断による偏りを防ぎます。
  4. 評価項目の分離
    例えば「コミュニケーション能力」と「業務遂行能力」を別々に評価することで、一方の評価が他方に影響を与えるのを防ぎます。
  5. 行動事実に基づく評価の徹底
    対象者の具体的な行動や成果を元に考課します。このため日々の評価を記録に残しておくと良いでしょう。
  6. 評価者間の調整
    複数の評価者が互いに良く知る被評価者を評価し、評価者間で評価結果や評価の根拠について議論し、評価のばらつきを是正します。

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