A/Dコンバーター(以下ADC)は、アナログ信号をデジタル信号に変換するものです。組み込みシステム分野でもっとも基本となる重要部品の1つです。ADCはアナログ信号を標本化、量子化、符号化することでデジタル信号に変換します。
- 標本化
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連続的なアナログ信号を、一定周期で測定することで離散的に切り出すことです。サンプリングともいいます。
- 量子化
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標本化によって得られた値を、最も近い整数値に近似することです。またこのとき発生する誤差を量子化誤差といいます。
- 符号化
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量子化によって得られた値を、0と1の2進数で表す符号に変換することです。
ADCの基本
サンプリングレート
1秒間に何回A/D変換できるかという能力を表します。単位にはHzまたはSPS(Samples Per Second)が用いられます(Hz = SPS)。
サンプリングレートの1/2の周波数をナイキスト周波数といいます。元の信号の周波数がナイキスト周波数以上の場合、デジタル化した際に誤った信号として認識してしまう恐れがあります。その結果元の高周波の信号は、低周波や平坦な線のように見えてしまうことがあります(下図参照)。これをエイリアシングといいます。
このため信号の周波数を測定する場合は、元の信号の周波数を正しく把握または想定し、その2倍以上のサンプリングレートを持つADCを選定する必要があります。
分解能
測定対象であるアナログ信号を、どれだけ細かくデジタル信号化できるかという能力を表します。一般的に12ビット、16ビット、24ビットがよく用いられます。たとえば16ビットであれば、分割数は「216=65536」となります。電圧範囲が0~5Vの場合、約76µVの変化まで捉えられることを表します。しかし現実のアナログ信号にはノイズなどが含まれており、信号に幅があります。このため16ビットのA/Dコンバーターを使ったとしても、16ビットの分解能を得られるわけではない点に注意してください。
- 一般的にビット数が大きいほど高精度・高分解能でA/D変換できます。しかしビット数とサンプリングレートはトレードオフの関係にあります。何事も最適な物を選択するのが良いでしょう。
オーバーサンプリング
必要とするサンプリングレートの整数倍の速度でサンプリングし、その平均値を採用することで分解能の向上やノイズ除去の効果を見込めます。この技法をオーバーサンプリングといいます。なおオーバーサンプリングによる分解能向上の目安は、下記表のとおりです。
倍数 | 4倍 | 16倍 | 64倍 | 256倍 |
---|---|---|---|---|
分解能 | 1ビット | 2ビット | 3ビット | 4ビット |
ADCの種類
ADCにはいくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。代表的なものを下記表に示します。
種類 | サンプリングレート | 分解能 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|
フラッシュ | 1G~100GHz | 4~12ビット | 最速 | オシロスコープ |
パイプライン | 10M~10GHz | 8~16ビット | 高速 | 通信機器、映像機器 |
逐次比較 (SAR) | 10k~100MHz | 8~18ビット | 低消費電力 | 計測 |
デルタシグマ (ΔΣ) | 100~40MHz | 12~32ビット | 高分解能 | 計測、オーディオ |
フラッシュ型
アナログ信号を基準電圧と比較して、一度にデジタル信号に変更します。通常ADCは段階を追ってデジタル化していきます。しかしフラッシュ型にはこの工程がないため、他のADCと比較してサンプルホールドアンプ(SHA)が不要な他、非常に高速にA/D変換できるのが特徴です。
デメリットとしては、Nビットの分解能を得るためには(2N-1)個の比較器(コンパ―レーター)が必要です。構造は単純ですが、分解能が大きくなるほどチップ面積が大きく、消費電力が高く、価格が高くなります。
パイプライン型
バケツリレーのように、1ビットずつ順にA/D変換します。フラッシュ型ほど高速ではありませんが、1度に1ステージ分だけ稼働させれば良いので消費電力は少なく済みます。
SAR型
SAR(Successive Approximation Register)型は、最も広く使われているADCです。比較器が1つしかないシンプルな構成のため小型で低消費電力化しやすく、かつ高精度・高分解能というバランスの良さが特徴です。
DACの最上位ビット(MSB)を「1」、その他のビットを「0」に設定した状態でアナログ入力信号と比較し、アナログ入力信号の方が大きければMSBは「1」、そうでなければ「0」とします。この作業を上位ビットから順に繰り返すのがSAR(逐次比較)型です。
ΔΣ型
ΔΣ型は高分解能に特化した比較的新しいADCです。分解能とサンプリングレートはトレードオフの関係にあります。このためΔΣ型は高速サンプリングには向きません。
ΔΣ型はオーバーサンプリングにより高周波側に移行させた量子化雑音を、ローパスフィルターで除去します。これにより変換精度を向上させ、高精度・高分解能を実現します。
- 海外では「ΣΔ」の順で表記されることもあります。
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